大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福島地方裁判所 昭和60年(行ウ)2号 判決 1985年12月27日

原告

星平八

藤原豊明

弓田国勝

右三名訴訟代理人弁護士

高橋一郎

右訴訟復代理人弁護士

渡辺和子

被告

福島県南会津郡下郷町選挙管理委員会

右代表者委員長

星竹造

右訴訟代理人弁護士

渡辺健寿

右指定代理人

湯田和男

外四名

訴訟参加人

櫻木左久雄

右訴訟代理人弁護士

堀切真一郎

目黒鷹雄

本田哲夫

船木義男

主文

一  別紙目録第一及び第二記載の者らが行つた福島県南会津郡下郷町長解職請求者署名簿の署名の効力に関する異議の申出に対し、被告が昭和六〇年二月一七日同目録第一及び第二記載の各署名についてなした各決定のうち、同目録第一記載の署名中番号1、2、4ないし15、17ないし20、22、23、25ないし29の各署名に関する部分及び同第二記載の署名全部に関する部分を取り消す。

二  訴訟参加人が昭和六〇年二月三日なした福島県南会津郡下郷町長解職請求者名簿の署名の効力に関する異議の申出に対し、被告が同月一七日別紙目録第三及び第四記載の各署名についてなした各決定のうち、同目録第三記載の署名中番号1ないし21、23、26ないし49、51ないし61、63ないし71、75の各署名に関する部分及び同第四記載の署名中番号1ないし10、12ないし29、31ないし45の各署名に関する部分を取り消す。

三  別紙目録第一記載の署名中番号1、2、4ないし15、17ないし20、22、23、25ないし29の各署名、同第二記載の署名全部、同目録第三記載の署名中番号1ないし21、23、26ないし49、51ないし61、63ないし71、75の各署名及び同四記載の署名中番号1ないし10、12ないし29、31ないし45の各署名がいずれも有効であることを確認する。

四  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

五  訴訟費用(参加費用を含む)は、これを一〇分し、その一を原告ら(原告弓田国勝を除く)の負担とし、その余を被告及び訴訟参加人の負担とする。

六  本件訴訟のうち、原告弓田国勝の請求に関する部分は、昭和六〇年九月二五日同原告の死亡により終了した。

事実

第一  当事者の求める裁判

一  原告ら

別紙目録第一、第二に掲げる者がそれぞれ申し出た福島県南会津郡下郷町長解職請求者署名簿の署名の効力に関する異議に対し、被告が昭和六〇年二月一六日右異議を認め、右各署名を「無効とする」とした決定はこれを取り消す。

訴訟参加人が昭和六〇年二月三日付で申し出た福島県南会津郡下郷町長解職請求者署名簿の署名の効力に関する異議に対し、被告が昭和六〇年二月一七日「一部を認容する」として別紙目録第三、第四記載の署名を無効とした決定はこれを取り消す。

右署名簿記載の別紙目録第一ないし第四記載の者の各署名は、いずれも有効であることを確認する。

訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  請求原因

一  原告星平八は、福島県南会津郡下郷町長である訴訟参加人の解職請求代表者であり、原告藤原豊明及び同弓田国勝は同代表者から署名収集の委任を受けた者である。

二  原告らは、訴訟参加人の解職を求めるべく昭和五九年一二月二日から昭和六〇年一月一日までの間、原告星平八を下郷町長解職請求の代表者として、訴訟参加人の解職のための署名を集め、同年一月五日被告に対し右署名簿を提出した。

三  被告は、同月二七日までに右署名の審査をなし、署名総数二六五六名、有効署名二五七二名、無効署名八四名と決定した。

四  右決定に対し、

別紙目録第一記載の者ら(二九名)は「署名が本人の自署でない」との理由をもつて、

同目録第二記載の者ら(二一名)のうち、

1渡部正美及び7渡部一衛は「署名収集者の強要・強迫による署名である」との理由をもつて、

2渡部政忠は「署名はしたが押印をしない」との理由をもつて、

3小川正、4芳賀花子、5小川ミネ及び6芳賀秋夫は「請求代表者に対し署名取消の申出をした」との理由をもつて、

その余の者らは「署名収集者の詐偽説明に基づく署名である」との理由をもつて、それぞれ被告に対し、異議申出をした。

被告は、右各異議を認め、同年二月一六日右各署名をすべて無効とする決定をした。

五  また訴訟参加人は、昭和六〇年二月三日別紙目録第三の者ら(七五名)及び同第四の者ら(四六名)の各署名につき、「同目録第三の者らの署名簿(署名簿第六号、以下「六号簿冊」という)及び同目録第四の者らの署名簿(署名簿第一〇号、以下「一〇号簿冊」という)はいずれも成規の手続によらない署名簿及び改編された署名簿として無効である」との理由をもつて異議申出をした。

被告は右異議を認め、同月一七日右各署名をすべて無効とする決定をした。

六  しかし、

別紙目録第一記載の者らの各署名はいずれも本人の自署であり、

同目録第二記載の者らの各署名については、2渡部政忠の押印は本人の押印であり、3小川正、4芳賀花子、5小川ミネ及び6芳賀秋夫が署名簿提出前に請求代表者に対し署名取消の申出をした事実はなく、その余の者らに対し署名収集者が強要・強迫あるいは詐偽説明をした事実はなく、

同目録第三及び第四記載の者らの各署名については、六号簿冊及び一〇号簿冊はいずれも受任者が事前に編綴して作成した成規の署名簿であつてこれらが改編された事実はなく、

したがつて、右各署名はいずれも有効であるから、これらを無効とする被告の右各決定は、いずれも取り消されるべきものである。

七1  被告が別紙目録第三及び第四記載の各署名を無効とした前記決定は、被告委員長星竹造が、委員中に欠員があるとしていずれも昭和五九年四月五日臨時町議会において選挙された次の補充員の中から、佐藤栄三郎及び星七郎を補欠して構成した委員会によつてなされたものである。

(氏 名)   (得票数)

佐 藤 栄三郎  五 票

星   七 郎  四 票

星   頼 雄  四 票

室 井 義 春  四 票

2(一)  委員中に欠員があるとされたのは、同委員長が、前記決定日である昭和六〇年二月一七日当日、表決に先立ち、委員遠藤徳一郎及び同星節に対し退場を命じたことによるものである。

(二)  しかしながら、右退場命令は正当の理由を欠くものであつて無効であり、したがつて、当時委員中に欠員があるとの状態はなかつたのであるから、右補欠によつて委員会を構成してなした被告の右決定は、組織構成に重大な瑕疵があるものとして取り消されるべきものである。

3(一)  委員の補欠の順序について地方自治法一八二条三項は「得票数が同じであるときはくじにより、これを定める」と規定しているが、同委員長がなした星七郎の補欠は、くじの方法によらなかつたものである。

(二)  したがつて、右法令違反の補欠方法によつて委員会を構成してなした被告の右決定は、組織構成に重大な瑕疵があるものとして取り消されるべきものである。

八  よつて、原告らは、地方自治法七四条の二第八項及び八一条に基づき、別紙目録第一及び第二記載の者らの異議申出に対し被告が昭和六〇年二月一六日なした右各目録記載の各署名を無効とするとの決定並びに訴訟参加人の異議申出に対し被告が同月一七日なした別紙目録第三及び第四記載の各署名を無効とするとの決定をいずれも取り消し、右各署名がいずれも有効であることの確認を求める。

第三  被告の本案前の主張

一  貼用印紙の不足

原告らの訴えは、地方自治法七四条の二第八項及び八一条により、解職請求者署名簿の署名の効力を争う訴訟である。

右訴訟は「町長リコールの成否を決める有効投票数を争うもの」ではなく、あくまでも個々の署名の効力を争うもので、リコールの成否は、訴訟によつて個々の署名の効力が確定されることにより結果的に認められるものである。

本件訴訟は、各署名毎になされた異議申出に対して被告がなした決定の取消しを求めるものであり、被告の決定は署名毎になされているのであつて、対象となる署名の数に相当する決定処分がある。

本件訴訟においては、対象となる署名が複数あり、個々の署名について請求の併合がなされているのであつて、結局「決定」の取消しを求める数に相当する訴訟物があるものと解すべく、本件訴訟の訴額は、九五万円に署名数を乗じた額となる。

原告らの請求のうち、別紙目録第三記載の者らの署名については原告星平八と同藤原豊明が、同第四記載の者らの署名については同星平八と同弓田国勝が、それぞれ各署名について被告のなした決定の取消しを求めている。

同星平八は町長解職請求の代表者として、同藤原豊明及び同弓田国勝はそれぞれ署名簿の署名収集の受任者として、異なつた立場で署名の効力の有無を争うものである。

したがつて、右の原告が複数となる署名については、それぞれ被告に対する取消請求が原告の数に応じて数個であると解せられるから、原告二人分の訴額を合算し、九五万円の二倍とすべきである。

右の次第で、別紙目録第一及び第二記載の者らの署名については九五万円に署名の数を乗じた額、同目録第三及び第四記載の者らについては九五万円に署名の数を乗じた額にさらに二を乗じた額が訴額と考えられるところ、原告らは、訴訟物の価額を九五万円とし、これに対する印紙を貼用するにとどまるから、必要な印紙を欠くものとして、本件訴えは却下されるべきである。

二  原告弓田国勝の死亡

原告弓田国勝は、昭和六〇年九月二五日死亡した。

本件訴訟は、一身専属的権利に基づく請求であつて承継を認められないものであるから、訴訟終了の宣言がなされるべきである。

第四  請求原因に対する被告の認否及び主張

一  請求原因一ないし五の事実は認める。

二  同六の事実は否認する。

三  同七のうち、1の事実及び3(一)の事実は認めるが、その余の事実は否認する。

四1  仮に別紙目録第一記載の者らの署名が自署であつたとしても、

(一) 2山川トヨ子、5山川善次、7星信雄及び8星澄江の各署名は、いずれも一〇号簿冊になされたものであるところ、一〇号簿冊は、成規の手続によらない署名簿及び改編された署名簿として無効であるから、右各署名もまたこれによつて無効である。

(二) 4室井利江、6荒井照道及び11児山トシイの各署名は、受任者が署名の趣旨を全く説明せず、署名簿の表紙、解職請求書等を示さず署名部分だけを示して署名を求め、あるいは野岩線廃止反対のための署名と虚偽の説明をして署名を求め、右署名者らが署名に応じたものであるから、詐偽による署名として無効である。

(三) 12児山時子は、署名当時ノイローゼの状態で、解職請求の意味及び自分が署名することの意味を理解するだけの意思能力がなかつたものであるから、解職請求の署名としては無効である。

2  別紙目録第二記載の者らの署名については、請求原因四記載の無効事由があるが、そのほか、

(一) 7渡部一衛の署名は、正規の受任者でない弓田国勝によつて収集されたものであり、また、櫻木町長を応援するための署名である旨の虚偽の説明によるものであつて、無効である。

(二) 10玉川重美の署名は、正規の受任者でない佐藤キクエによつて収集されたものであつて、無効である。

3  別紙目録第三記載の者らの署名は、六号簿冊が成規の手続によらない署名簿及び改編された署名簿として無効であることによりすべて無効であるが、そのほか、

(一) 22神主税、24伊藤晴治、25伊藤カツ子の各署名は、いずれも自署でないことにより、無効である。

(二) 31吉野明子の署名は、正規の受任者がいないところでなされたものであつて、無効である。

五1  別紙目録第三及び第四記載の者らからの異議申出の審査に際し、被告委員長が補充員の中から補欠をしたのは、委員四名のうち遠藤徳一郎及び星節が、表決が可否同数のため委員長の採決となり自分らの意見が否決される見通しとなつたところから、体調の不全を理由として自ら退場し、その結果委員中に欠員が生じたことによるものである。

2  被告委員長は、下郷町議会議長から通知を受けた選挙管理委員会委員及び補充員の選任の通知書における補充員の記載順序が、佐藤栄三郎、星七郎、星頼雄、室井義春の順であつたため、右記載順序に従い、上位二名をもつて委員の補欠をした。

なお、星頼雄は昭和五九年一二月下郷町から転出し、補充員たる資格を失つていた。

3  右のとおりであつて、被告委員長がなした委員の補欠は委員に欠員が生じたことによるものであり、また、その補欠の順序にたとえ地方自治法一八二条三項違反の点があつたとしても、これは、作為的、意識的な違法行為ではないのであるから、右手続上の瑕疵をもつて決定の取消原因とすることはできないものというべきである。

第五  請求原因に対する訴訟参加人の主張

一  六号簿冊及び一〇号簿冊は、署名収集の段階では各葉ごとに分離されていたのが後に編綴されたものであつて、成規の手続によらない署名簿及び改編された署名簿として無効であるところから、これらの署名簿になした別紙目録第三及び第四記載の者らの各署名は、いずれも無効である。

二1  仮に六号簿冊が署名簿としては有効であつたとしても、

(一) 9佐藤ハルミ、14横山貴善、16横山由喜子、21佐藤力、24伊藤晴治、25伊藤カツ子、26青木保雄、27青木宗子、28吉野友喜知、29吉野圭介の各署名は、いずれも本人の自署でないから、無効である。

(二) 8神登、18大竹イノ、20神主計、22神主税、31吉野明子の各署名は、署名収集受任者の虚偽説明によるものであるから、詐偽による署名として無効である。

(三) 32室井道子の署名は、署名収集受任者の強迫によるものであつて、無効である。

2  仮に一〇号簿冊が署名簿としては有効であつたとしても、

8湯田イワ子、12室井イヨ子、15橋本辰夫、16橋本郁、17米村洋、18内海日出夫、23小椋ヨシノ、30鈴木次郎、31鈴木美子、35二宮ツギヲ、36河合トヨノ、40渡部正徳、46湯田モンの各署名は、いずれも本人の自署でないから、無効である。

第六  本案前の主張に対する原告らの認否及び反論

一  貼用印紙の不足について

本件訴訟は、各署名の効力の有効・無効を通じて町長リコールの成否を決める有効投票数を争うものであり、請求の目的は実質的に同一の法律関係であるから、訴額吸収法則を適用すべきであつて、被告主張のように合算すべきではない。

仮に、署名ごとに訴額を定めるとしても、そもそも非財産権上の請求には固有の意味における訴額はないのであるから、請求の併合により訴額が増加することはなく、したがつて、訴額算定にあたつては請求を一個として処理すべきである。

二  原告弓田国勝の死亡について

原告弓田国勝が昭和六〇年九月二五日死亡したことは認める。

第七  被告及び訴訟参加人の主張に対する原告らの反論

一  訴訟参加人は、別紙目録第三及び第四記載の者らの署名について、仮に六号簿冊及び一〇号簿冊が署名簿としては有効であるとしても、その一部の者の署名は自署でないから無効であると主張する。

しかし、訴訟参加人は、右各署名については「当初は署名簿が各葉ごとに分離された状態で署名され、しかるのちに綴じられたもの」であることを理由としてのみ異議の申出をなし、それ以外の署名の無効理由を主張していなかつたし、各署名者からは異議の申出がなされていない。

ところで、訴訟参加人が、訴訟において初めて右のような予備的主張をなすことは、次の理由から許されない。

1  選挙管理委員会による署名の効力に関する決定は、確認的行政行為であり、また法は右署名の効力については法定の期間内に一定の手続によつてのみこれを行なうことができるとしているのであるから、同委員会が署名の有効無効を決定してその旨の証明を終了し、これを縦覧に供して公表した後は、たとえ右署名に無効又は有効とすべき事由が発生しても、法定の期間内に異議申出がなされなかつた場合は、同委員会において従前の決定を変更することは許されない。

しかも直接請求は、その時期を選ばなければならないものであり、かつ請求の諾否は最終的には住民の総意によつて決せられるのであつて、地方自治法はかかる観点から、署名の効力については迅速な確定を図るべく、審査期間、異議申出期間、出訴期間等について、いずれも極めて短期の期間を決定している。

このような法の趣旨に鑑みると、本件訴訟において被告や訴訟参加人が異議申出事由やこれに対する決定理由と全く異なる違法事由をも主張しうるとするならば、異議申出期間経過後に異議申出を認めたり、右申出がないのに同委員会が従前の決定を変更することと等しい結果になる。

2  特に本件のように署名簿の瑕疵を理由とする異議申出は、一連の署名を大量に無効と主張できるのであり、かかる場合に訴訟において訴訟参加人主張のような予備的主張ができるとすれば、被解職請求者としては、短期間の異議申出期間には、特段の根拠もないのにとりあえず署名簿の瑕疵を理由として大量の異議を申し出で、その後訴訟において「数打ちや当たる」式に自署でない等他の無効理由を追加的に主張して、署名の効力確定をいたずらに遅延させることができるのであつて、右効力の迅速な確定を図るため異議申出期間等を短期間にした法の趣旨に反する結果となる。

3  本件異議申出の決定における署名の無効理由は、署名簿が成規の手続によらず改編されたという形式的瑕疵に基づくものであり、一方、予備的主張は、自署でない等実質的瑕疵に基づくものであつて、右決定の違法理由とは基本的事実関係において同一性を有しない。

行政訴訟の訴訟物については、違法性一般とするのが通常であるが、右理論の背後には、既判力による遮断力との関係で判決後の同一処分のむしかえしをできるだけ封ずる意図がある。

本件署名の効力に関しては前述のように不可変更力があり、かつ異議申出期間については極めて短期間に法定されているので、異議申出に対する決定理由と基本的事実関係において同一性を有しない違法理由は主張できないとしても、紛争一回性の要請に反しない。

よつて訴訟参加人の右予備的主張はそれ自体失当である。

二  また訴訟参加人は、右署名が有効である場合も、右各簿冊の数名の署名者については署名収集者による詐偽があつたと主張する。

しかし、詐偽、強迫により署名者が錯誤に陥つたかどうか、畏怖の念を生じたかどうか等は、本人の内心の意思決定に関する事項であり、地方自治法七四条の三第一項に規定する無効事由のように、外形的事実によつて判定することができるものと異なる。

同法は、別個に同条二項を設け、当初の署名審査においては詐偽、強迫による署名を無効事由とはせず、これを理由とする異議申出があつてはじめて審査するものとし、右申出が正当であれば無効とする旨規定している。

したがつて、署名者本人が署名の効力について異議申出をした場合においても、その理由として強迫又は詐偽による主張をしていない以上、第三者の訴訟参加人がこれを主張することはできない。

第八  原告らの反論に対する被告及び訴訟参加人の再反論

一  被告

訴訟の過程で新たに判明した無効の理由を被告が追加補充して主張し、署名を無効とした被告の決定の効力を維持することができると解すべきである。すなわち、

1  本件訴訟は、形式的には被告の決定の取消しを求める形をとるけれども、終局的には署名の効力の有無を争うものであるから、原告らと被告との間において署名の効力は無効理由のいかんにかかわらず未確定の法律関係にある。

2  解職制度は極めて公益的な見地から設けられているので、署名の効力の認定についても異議申出があつた以上、当事者の主張のみに無効の理由を限定することは不適当である。

3  被告としては署名者の異議申出に対する審査期間の制限があり、審査の手続にも限界があり、訴訟に至るまで被告の知りえない事情も多い。

4  係争中の署名を無効とすべき事実が訴訟の過程で明らかになつた以上、その時点まで主張されていなかつた理由であつても、公益的見地から、実体的真実に即した結果を実現すべきである。

5  新たな理由の主張は訴訟の対象となつている署名に限つてなすものであり、異議申出がなく確定した署名の効力をむしかえして争うものではないから、右のように解しても原告らに特段の不利益を与えることにはならない。

二  訴訟参加人

訴訟参加人は、異議申出において、六号簿冊成立の手続的瑕疵を別紙目録第三記載の者らの署名の無効理由として主張したが、訴訟においては、予備的に非自署等個別無効事由を主張することも許されると解すべきである。すなわち、

1  本件訴訟は、異議申出に対する選挙管理委員会の決定の当否を争うものであるが、選挙管理委員会の決定手続と訴訟手続とを、いわば事後審的構造を持つものと捉える必要はなく、むしろ民事訴訟の控訴審と同様続審的構造を持つと考えるのが抗告訴訟としての本件訴訟に適する。

2  異議申出段階で形式的瑕疵が存するのが確実と考えられる場合に、すべての署名について実質的瑕疵の存在を主張する必要がないし、期待もできない。

3  個々の署名について、より重大な無効事由である非自署等の事実が訴訟段階で発見されたとしても全くこれを斟酌できないのでは、著しく具体的妥当性に欠ける。

4  本件訴訟の究極的趣旨は個々の署名の有効・無効を確定するという点あり、ある特定の無効理由の存否を確定することが目的ではない。

5  すでに当該署名については異議申出に対して出訴され、異議申出に対する決定が未確定な状態にあるのであるから、無効事由の追加主張を認めたとしても、異議申出期間経過後の異議申出を認めたりすることと同様にはならない。

第九  証拠関係<省略>

理由

一本件訴訟の訴額について

原告らは、異議申出にかかる署名のうち一七一名の署名に関する被告の修正決定に対し、本訴をもつてその取消しとその署名の有効確認を求めるものであるが、その訴訟物の価額については、民事訴訟費用等に関する法律四条二項に則り九五万円とし、その相当印紙八二〇〇円を貼付していることが記録上明らかである。

ところで、地方自治法八一条、七四条の二により地方公共団体の長の解職請求の署名の効力に関し、署名者あるいは被解職請求者らから申し出られた異議につき、選挙管理委員会がこれ正当として修正決定をし、あるいは正当でないとして棄却する決定は、各署名ごとにそれぞれ別個の処分であり、これに対する不服の訴えもまた各署名ごとに各別の訴えをなすものと解せられるが、右各異議を正当とする修正決定に対し解職請求者がその取消しを求める訴訟の目的は、右決定の行政処分としての個数が各署名ごとに複数であるとしても、地方公共団体の長の解職請求成否の基礎事実である有効署名数の確定ということに尽きるものと解される。

したがつて、右の訴えを数個の非財産権上の請求を併合したものと解しても、なお右訴えの特殊な目的から、その訴額については、これを実質的に解し、各別の請求の擬制訴額を合算すべきものではないと解するのが相当である。

また、解職請求の代表者及び署名収集の受任者等複数の代表者が共同して出訴した場合においては、各自の訴えをもつてする利益は吸収関係にあり、さらに、右取消請求に署名有効確認の訴えが併合されても、その請求は別個独立のものではなく、その請求の利益は右請求の利益と重複し、これに吸収されるものと解せられる。

そうすると、原告らが本訴において貼用した印紙額は、相当といわなければならない。

二原告弓田国勝の死亡について

原告弓田国勝が昭和六〇年九月二五日死亡したことは当事者間に争いがない。

ところで、地方自治法七四条の二及び八一条の規定による処分取消しの訴えは、原告が死亡した場合においては当然に終了するものであるから、本件訴訟のうち、弓田国勝の請求に関する部分は、同日その死亡により終了したものといわなければならない。

三請求原因について

1  請求原因一ないし五の事実は、原告らと被告との間においては、争いがなく、原告らと訴訟参加人との間においては、訴訟参加人が明らかに争わないから自白したものとみなす。

2  別紙目録第一記載の署名について

(一)  証人佐藤東一(番号1の署名に対する証人、以下番号のみにより対応する署名を表示する)、同室井利江(4)、同荒井照道(6)、同星信雄(7)、同星澄江(8)、同大竹トヨノ(9)、同大竹一芳(10)、同児山トシイ(11及び12)、同玉川リキ子(13)、同江森マツコ(14)、同渡部ミドリ(15)、同渡部政道(17)、同室井好雄(18)、同星金雄(19)、同室井ミサ子(20)、同佐藤秋子(22)、同永峯五郎(23)、同渡部庄一(25)、同渡部利江(26)、同玉川ヨシノ(27)、同大竹貫一(28)、同三沢ヤシノ(29)の各証言によれば、別紙目録第一記載署名のうち1、4、6ないし15、17ないし20、22、23、25ないし29の各署名は、いずれも本人によつてなされたものであることが認められ、他に右認定に反する証拠はない。

なお、23永峯五郎の本件署名簿の署名(甲第二一号証の二)と当裁判所における証人永峯五郎の宣誓書の署名を対照しても、23の署名についての右認定を覆すに足りない。

14江森マツコの署名については、証人江森マツコの証言によれば、同証人が本件署名簿(甲第一二号証の二)になした署名は同原告の名である「マツコ」のみであつて同原告の姓の誤記と考えられる「イモリ」の記載は同原告がなしたものではないことが認められる。

しかしながら、解職請求の署名簿の署名は、その解職請求の意思の表意者が何びとであるかを認めるに足りるものであればよく、特段の事情のない限り名のみで特定し得るものであるから、名が自署である以上その姓が自筆でなかつたとしても、このことは署名の効力を妨げるものではないと解せられる。

(二)  別紙目録第一記載の署名のうち、2及び5の各署名については、2山川トヨ子の本件署名簿の署名(甲第一〇号証の二五)と異議申出書の署名(乙第二号証の二)とを対照すると、右各署名の筆跡は酷似し、同一人によつてなされたことが認められ、また、5山川善次の本件署名簿の署名(甲第一〇号証の二六)と異議申出書の署名(乙第五号証の二)を対照すると、右筆跡は酷似し、同一人によつてなされたものであることが認められ、結局右各署名はいずれも本人によつてなされたものと認められるところ、他に右認定に反する証拠はない。

(三)  別紙目録第一記載の署名のうち、3、16、21、24の各署名については、これらが本人によつてなされたものであることを認めるに足りる証拠がない。

なお、16室井政美の署名については、同人の本件署名簿の署名(甲第二九号証の四)と異議申出書(乙第一六号証の二)及び宣誓書(乙第一六号証の四)とを対照すると、その筆跡に類似性が認められるものの、「政」の第九画及び「美」の第九画が本件署名簿の記載は右上方にはね上る弧状であるのに対し異議申出書の記載は右下方に下る弧状であるなどの相違点が認められるから、これらが同一人の筆跡と認めるにはなお疑問が残るものといわなければならない。

また、24渡部イクの署名については、証人渡部イクの証言によれば、右署名は同人の子渡部鉄男が代筆したものであることが認められる。

(四)  被告は、別紙目録第一記載の署名の一部について、予備的に他の無効事由を主張するので、これについて判断する。

(1)  ところで、地方自治法七四条の二第四項、八項に基づく争訟の目的は、個々の署名の有効・無効を迅速に確定することであり、同条五項、一一項はその審理期間について特別の定めをなすものであるが、その無効事由の主張については特段の制限規定もなく、その訴訟の目的は当該署名の有効・無効を確定することにあるところから、後記のとおり詐偽、強迫を理由とする場合はその事柄の性質上制約を受けるものの、その他の事由については、それが訴訟上時機に遅れた攻撃防御方法として民事訴訟法一三九条に基づき却下されることのあるのは別として、なお追加、変更を許容しうるものと解する。

詐偽、強迫を無効事由とする場合については、同法七四条の三第二項は、同条一項とは別に「詐偽又は強迫に基づく旨の異議申出があつた署名で市町村の選挙管理委員会がその申出を正当であると決定したものは、これを無効とする」と規定するが、その趣旨は、詐偽又は強迫は署名者本人の内心に関わる事柄であつて、外形的事実のみにより容易に判定することができないものであるところから、署名者本人のその旨の異議申出のある場合に限り、その理由の存否を判断する趣旨と解せられ、署名者本人がそのような異議申出をしていない場合は、選挙管理委員会ないし被解職請求者は、署名者以外の第三者としてこれを主張しえないものというべきである。

(2) 被告は、別紙目録第一記載の署名のうち、2山川トヨ子、5山川善次、7星信雄、8星澄江の各署名は、一〇号簿冊が成規の手続によらない署名簿及び改編された署名簿として無効であることから、これに伴い無効であると主張する。

しかしながら、一〇号簿冊が無効でないことは後記6のとおりであるから、右主張は採用することができない。

(3) また、被告は、別紙目録第一記載の署名のうち、4室井利江、6荒井照道、11児山トシイの各署名は、受任者の詐偽による署名として無効であると主張する。

しかしながら、<証拠>、児山トシイ名義の異議申出理由書である乙第一一号証の二の記載によれば、同人らの異議申出理由はいずれも自署でないことを理由とするものであつて、詐偽を理由とするものではなかつたことが認められるから、第三者である被告が、右各署名について詐偽を理由としてその無効を主張することはできないものといわなければならない。

(4) さらに、被告は、別紙目録第一記載12児山時子の署名は意思能力のない者による署名として無効であると主張する。

しかしながら、証人児山トシイの証言(一、二回)によれば、児山時子は署名当時ノイローゼないし欝病に罹患していたことが認められるが、このことから直ちに同人に意思能力がなかつたものとまで認めるに足りず、他に右主張事実を認めるに足りる証拠はない。

(五)  以上により、別紙目録第一記載の署名のうち、1、2、4ないし15、17ないし20、22、23、25ないし29の各署名は有効であるが、他方、3、16、21、24の各署名はこれを有効と認めることができない。

3  別紙目録第二記載の署名について

(一)  被告は、別紙目録第二記載の署名は署名収集者の強要・強迫による署名であると主張するが、これに副う乙第三〇号証の二の記載は、署名収集者による強要・強迫はなかつた旨の証人渡部正美の証言に照らして措信し難く、他に右主張事実を認めるに足りる証拠はない。

(二)  被告は、同2の署名は署名者の押印を欠くと主張するが、これに副う乙第三一号証の二の記載及び証人渡部政忠の供述は、本件署名簿の指印(甲第六号証の八八)が同人の指印である旨の鑑定の結果及び原告藤原本人の供述に照らして措信し難く、他に右主張事実を認めるに足りる証拠はない。

(三)  被告は、同3ないし6の署名については各署名者が請求代表者に対し署名取消しの通知をしたと主張し、<証拠>によれば、右各署名者である小川正、芳賀花子、小川ミネ、芳賀秋夫は、いずれも昭和六〇年一月四日一二時から一八時までの間に楢原郵便局に対し、それぞれの署名を取り消す旨を記載した請求代表者である原告星平八宛の内容証明郵便を差し出したことが認められる。

しかしながら、署名者は署名簿が選挙管理委員会に提出されるまでは請求代表者を通じて署名を取り消すことができる(地方自治法施行令九五条、一〇〇条)ものであるところ、右各内容証明郵便が署名簿提出前に原告星平八に配達された事実を認めるに足りる証拠はなく、かえつて、<証拠>によれば、同原告は当該署名簿を含む署名簿のすべてを同月五日午前九時ごろ被告に提出したが、右各内容証明郵便はその後である同日正午ごろ同原告に配達されたことが認められる。そうすると右署名の取消しは無効といわなければならない。

(四)  被告は、同7の署名は署名収集者の強要・強迫による署名であると主張するが、これに副う乙第三六号証の二の記載は、署名収集者による強要・強迫はなかつた旨の証人渡部一衛の証言(後記措信できない部分を除く、以下同じ)及び同弓田勝二の証言に照らして措信し難く、他に右主張事実を認めるに足りる証拠はない。

右署名について、被告は、受任者以外の者による署名であると主張し、証人渡部一衛の供述中には、弓田国勝が署名収集に訪れたとの部分がある。

しかしながら、<証拠>によれば、その異議申出の理由は弓田勝二に何回も署名するよう求められ不本意ながら署名したというものであつて、弓田国勝から署名を求められたというものではないことが認められること及び同人に署名を求めたのは署名収集受任者の弓田勝二であるとの証人弓田勝二の証言に照らし、直ちに措信し難く、他に右主張事実を認めるに足りる証拠はない。

また、被告は、右署名は署名収集者の詐偽による署名であると主張するが、これに副う乙第三六号証の二の記載は、署名収集者による詐偽説明はなかつた旨の証人渡部一衛及び同弓田勝二の各証言に照らして措信し難く、他に右主張事実を認めるに足りる証拠はない。

(五)  被告は、同8ないし21の各署名はいずれも署名収集者の詐偽による署名であると主張するので、以下これについて順次判断する。

(1) 同8の署名については、室井典子が署名収集者から署名簿は公表しない、町を明るくするための署名であるとの詐偽説明を受けたとの乙第三七号証の二の記載は、右のような詐偽説明はなされなかつたとの証人室井典子の証言に照らして措信することができず、他に右署名が署名収集者の詐偽説明によつてなされた事実を認めるに足りる証拠はない。

(2) 同9の署名については、異議申出書である乙第三八号証の二には、室井権徳が署名収集者から「明日の下郷町を作る会」の会員署名といわれて署名した旨の記載があるが、異議申出書の署名欄の筆跡と異議申出の趣旨及び理由欄の筆跡とが異なること、同人が本件訴訟において証人として呼出を受けながら正当な事由なく出頭しないこと、後記のとおり、12、14、16ないし18の署名についても異議申出書にはそれぞれ署名収集者から「明日の下郷町を作る会」の会員署名との詐偽説明がなされた旨の記載がなされているにもかかわらず、証拠調べの結果右各署名についてはそのような事実はは認められなかつたこと等の事情に照らせば、右異議申出書の理由の記載のみによつては未だ署名収集者が同人に対し右のような詐偽説明をしたものと認めるには十分でなく、そして他に右事実を認めるに足りる証拠はない。

(3) 同10の署名については、玉川重美が受任者でない佐藤キクエから署名を求められ、町長を助けるための署名である旨の詐偽説明を受けたとの乙第三九号証の二の記載は、受任者藤原豊明が直接署名収集をなし、右のような詐偽説明は行なわなかつた旨の原告藤原本人の供述に照らして措信し難く、他に右署名が受任者以外の者によつてなされ、また詐偽説明がなされたとの事実を認めるに足りる証拠はない。

(4) 同11の署名については、阿部富二が署名収集者から町長を助ける嘆願書である旨の詐偽説明を受けたとの乙第四〇号証の二の記載は、右のような詐偽説明はなされなかつた旨の証人阿部富二の証言(後記措信できない部分を除く)及び同渡部政市の証言に照らして措信し難く、他に右署名が署名収集者の詐偽説明によつてなされたものであるとの事実を認めるに足りる証拠はない。

なお、証人阿部富二の供述中には、署名収集者からはリコールのための署名であるとの説明を受けなかつたとの部分があるが、右供述部分は、証人渡部政市の証言に照らし、直ちに措信することができない。

のみならず、右事実によつては、同人の署名が詐偽によるものということはできない。

(5) 同12の署名については、横山トヨが署名収集者から「明日の下郷町を作る会」の会員署名である旨の詐偽説明を受けたとの乙第四一号証の二の記載は、右のような詐偽説明はなされなかつた旨の証人横山トヨの証言(後記措信できない部分を除く)及び同星庄平の証言に照らして措信し難く、他に右署名が署名収集者の詐偽説明によつてなされたものであるとの事実を認めるに足りる証拠はない。

なお、証人横山トヨの供述中には、署名収集者からはリコールのための署名であるとの説明を受けなかつたとの部分があるが、右供述部分は、証人星庄平の証言に照らして直ちにこれを措信することができない。

のみならず、右事実によつては、同人の署名が詐偽によるものということはできない。

(6) 同13及び14の署名については、いずれも署名収集者から芳賀千恵子が「町長を助ける会」の会員署名、大竹ミツ子が「明日の下郷町を作る会」の会員署名である旨の各詐偽説明を受けたとの乙第四二号証及び同第四三号証の各二の記載は、右のような詐偽説明はなされなかつた旨の証人芳賀千恵子及び同大竹ミツ子の各証言に照らして措信し難く、他に右各署名が署名収集者の詐偽説明によつてなされたものであるとの事実を認めるに足りる証拠はない。

(7) 同15の署名については、五十嵐千鶴子が署名収集者から町長を助けるための署名である旨の詐偽説明を受けたとの乙第四四号証の二の記載は、右のような詐偽説明はなされなかつた旨の証人五十嵐千鶴子の証言(後記措信できない部分を除く)及び玉川彦衛の証言に照らして措信し難く、他に右署名が署名収集者の詐偽説明によつてなされたものであるとの事実を認めるに足りる証拠はない。

なお、証人五十嵐千鶴子の供述中には、署名収集者からはリコールのための署名であるとの説明を受けたことはなく、勝手に嘆願書と思い込んで署名をしたとの部分があるが、右供述部分は、証人玉川彦衛の証言に照らして直ちにこれを措信することができない。

のみならず、右事実によつては、同人の署名が詐偽によるものということはできない。

(8) 同16ないし18の各署名については、佐藤吉衛、三沢美恵子、吉野智之がいずれも署名収集者から「明日の下郷町を作る会」の会員署名である旨の詐偽説明を受けたとの乙第四五ないし第四七号証の各二の記載は、右のような詐偽説明はなされなかつた旨の証人佐藤吉衛、同二宮三男、同三沢美恵子、同吉野智之の各証言に照らして措信し難く、他に右署名が署名収集者の詐偽説明によつてなされたものであるとの事実を認めるに足りる証拠はない。

(9) 同19の署名については、白石マサエが署名収集者から署名をすれば町長の罪が軽くなる旨の詐偽説明を受けたとの乙第四八号証の二の記載は、右のような詐偽説明はなされなかつた旨の証人白石マサエ及び同佐藤保雄の各証言に照らして措信し難く、他に右署名が署名収集者の詐偽説明によつてなされたものであるとの事実を認めるに足りる証拠はない。

(10) 同20の署名については、弓田トノが署名収集者から、署名の公表はしない、署名をすれば町長が助かる旨の詐偽説明を受けたとの乙第四九号証の二の記載は、右のような詐偽説明はなされなかつた旨の証人弓田トノの証言(後記措信できない部分を除く)及び同星甫の各証言に照らして措信し難く、他に右署名が署名収集者の詐偽説明によつてなされたものであるとの事実を認めるに足りる証拠はない。

なお、証人弓田トノの供述中には、署名収集者からはリコールのための署名であるとの説明を受けなかつたとの部分があるが、右供述部分は、証人星甫の証言に照らして直ちにこれを措信することができない。

のみならず、右事実によつては、同人の署名が詐偽によるものということはできない。

(11) 同21の署名については、室井トシエの異議申出書である乙第五〇号証の二の記載及び証人室井トシエの証言中には、室井トシエが署名収集者から、署名簿は誰にも見せない旨の詐偽説明を受けて署名をしたとの部分がある。

しかしながら、右記載及び供述部分は、証人室井正象の証言に照らし、措信することができない。

のみならず、地方自治法七四条の三第二項に規定する詐偽とは、署名の目的を偽つて署名を求めるような行為を指し、単にその署名を誰にも見せないというようなことは、右の詐偽にはあたらないものであるから、右事実は異議申出の理由とすることができない。

(六)  以上のとおり、別紙目録第二記載1ないし21の各署名について、被告主張の無効事由はいずれも認めることができないものであるから、他にこれらについて無効事由が認められない本件においては、右各署名は、いずれも有効な署名であるといわなければならない。

4  被告の組織構成上の瑕疵について

(一)  請求原因七のうち1の事実及び3(一)の事実は、原告らと被告との間においては、争いがなく、原告らと訴訟参加人との間においては、訴訟参加人は右事実を明らかに争わないからこれを自白したものとみなす。

(二)  原告らは、委員に欠員状態が生じたのは被告委員長が委員遠藤徳一郎及び同星節に対し退場を命じたことによるものであるが、右退場命令は正当な理由を欠く無効なものであり、仮に有効であつたとしても補欠の方法が違法であるから、いずれにせよ被告がなした別紙目録第三及び第四の各署名を無効とした被告の決定は組織構成上重大な瑕疵があることにより取り消されるべきものであると主張する。

そこで、右委員の補充の経緯について検討する。

<証拠>並びに右争いのない事実によれば、次の事実が認められる。

(1) 被告は、訴訟参加人が昭和六〇年二月三日なした「別紙目録第三及び第四記載の各署名は、当初は署名簿が各葉ごとに分離された状態で署名され、しかる後に綴じられたものであり、当該簿冊記載の署名はすべて無効である」との異議申出を審査するため、同月一七日委員長星竹造、委員遠藤徳一郎、同星節及び室井龍一の出席のもとに会議を開催した。

(2) 会議は、午前九時三〇分開始されたが、右各署名簿(六号簿冊及び一〇号簿冊)がいずれも改編されたものであつて無効であるとする星竹造及び室井龍一の意見と改編の事実は認められないとする遠藤徳一郎及び星節の意見とが対立し、結論が得られなかつた。

(3) そこで星竹造は、表決によつてこれを決しようとしたが、遠藤徳一郎及び星節がこれに強く反対したため、第二回目の休議と第三回目の休議の間である午後四時五六分から午後六時三七分までの間の会議中において、同人らに対し「採決に応じない者は退場して下さい」と発言した。

(4) しかしながら、同人らはこれに応ぜず、会議はそのまま続行され、午後六時三七分参議院議員選挙の開票事務のため第三回目の休議に入つた。

(5) 会議は午後八時二三分再開されたが、その後も意見の対立状態は解消されなかつたところ、午後九時一五分遠藤徳一郎が体調の不全を訴えて退場し、ほどなく星節もこれに追随して退場した。

(6) 右両名の退場の結果、委員会は、地方自治法一八九条一項所定の会議の定足数である委員三人以上の出席を欠く状態となつたが、委員長星竹造は、同日が同法七四条の二第五項所定の異議申出に対する審査期間満了日であつたところから、委員の事故に因り委員の数が定足数に達しないときにおける委員の補充方法を定めた同法一八九条三項の規定に基づき、臨時に委員を補充して同日中に決定をしたいと考え、下郷町議会議長からの通知書の記載順序に従い、補充員佐藤栄三郎及び同星七郎を臨時補充して会議を続行させた。

(7) なお、右補充員はいずれも昭和五九年四月五日開会の下郷町議会臨時会で選挙されたものであり、その得票数は佐藤栄三郎が五票、その余の者らがいずれも四票であつたが、通知書には得票数は記載されず、単に氏名のみが、佐藤栄三郎、星七郎、星頼雄、室井義春の順に記載されていた。

(8) 右補充員二名を加えたうえでの審査の結果、全員一致で六号簿冊及び一〇号簿冊の署名を無効と決定した。

(三)  右認定事実に基づけば、星竹造が会議中に遠藤徳一郎及び星節に対し「採決に応じない者は退場して下さい」と発言した事実は認められるものの、右発言によつて同人らが直ちに退場することはなく、会議がそのまま続行された経緯に照らせば、右発言が委員長の職権発動行為としての「退場命令」であつたとは、直ちには認め難い。

のみならず、たとえそれが「退場命令」にあたるとしても、右の事情のもとにおいては、、右命令は執行されないまま推移して効力を失つたものというべきであり、同人らが退場をしたのは、別紙目録第三及び第四の各署名の効力に関する表決が自己の意に副わない結果となることが見込まれたところから、これを阻止する趣旨のもとに、遠藤徳一郎の体調の不全を理由とする任意の意思に基づくものであつたというべきであるから、同人らの退場が星竹造の右発言に基づくものということはできず、したがつて、同人らの退場が委員長の無効な退場命令によるものということはできない。

そして、他にこの点についての原告らの主張事実を認めるに足りる証拠はない。

(四)  ところで、前記認定事実によれば、遠藤徳一郎らが退場した昭和六〇年二月一七日は、地方自治法七四条の二第五項所定の異議申出に対する審査期間満了日であつて、残る時間は三時間に満たないものであつたから、右期間内における表決をなすうえにおいて、右退場は、同法一八二条三項に規定する欠員にはあたらないが、同法一八九条三項に規定する「委員の事故」にあたるということができるところ、「委員の事故」に因り委員の数が定足数に達しないときにおける補充員の臨時補充の順序については、同法一八九条三項は一八二条三項の順序によるべきものとしており、これによれば「選挙の時が同時であるときは得票数により、得票数が同じであるときはくじにより、これを定める」ものとされている。

してみると、被告委員長が、選挙の時が同時である補充員の中からなした前示臨時補充のうち、得票数五票の佐藤栄三郎を充てた補充は適法であるが、他の一名について得票数四票の補充員の中からくじによらないで星七郎を選定してなした臨時補充は、同法の規定に違反し、右決定をした被告の委員会には組織構成上瑕疵があつたものといわなければならない。

(五)  しかしながら、地方自治法は署名の効力に関する争訟については、異議申出やその審査の期間(同法七四条の二第四項、五項)及び争訟の期間を制限し(同条一一項)、控訴権を否定する(同条八項)などの規定を設け、署名簿の署名の効力をできる限り迅速に確定させようとしている趣旨に鑑みれば、選挙管理委員会が異議申出に対してなした決定の取消訴訟において、裁判所が右委員会の組織構成上の瑕疵、手続上の違法を理由として右決定を取り消し、もう一度右委員会において個々の署名の効力を判断させることは、地方自治法上予想していないと解され、選挙管理委員会が異議申出に対してなした決定の取消しを求める訴えは、形式上は決定の取消しを求める形をとるが、終局の目的は個々の署名の効力の確定にあると解されるから、右決定の取消訴訟の原告は、個々の署名の有効事由あるいは無効事由を主張して当該決定の取消しを求めることはできるけれども、委員会の組織構成上の瑕疵、手続上の違法を理由として、その取消しを求めることはできないものと解するのが相当である。

(六)  以上により、被告の組織構成上の瑕疵をもつて、別紙第三目録及び第四目録記載の署名についてなした被告の決定に対する取消理由にあたるとする原告らの主張は、採用することができない。

5  別紙目録第三記載の署名について

(一)  被告及び訴訟参加人は、別紙目録第三記載の各署名は、署名簿(六号簿冊)が当初は各葉ごとに分離された状態で署名され、後になつて編綴されたものであり、成規の手続によらない署名簿及び改編された署名簿として署名全体が無効であると主張する。

これについて、証人室井道子及び同湯田政弘の各証言中には、いずれも六号簿冊の署名者である同証人らが署名をした用紙は綴じられていない二枚の用紙であつたとの供述部分があり、丙第一、二号証(新聞)にも、六号簿冊、一〇号簿冊を扱つた原告藤原豊明、同弓田国勝の話として、「署名を集める際にバラバラにして持ち歩いたり、裏表紙がはがれたりしただけで改ざんはしていない」と強調している旨の記載がある。

しかし、鑑定の結果によれば、六号簿冊は、ホッチキスの針穴からみて編綴されていたものが解体された後再び編綴された形跡はないこと、用紙を編綴した後に「星」の割印が押捺されたこと、用紙の裏面に汚染、破損、折目など用紙を個々に分けて一枚の用紙の状態で使用したことを窺わせる形跡はないこと、署名の筆圧痕からみて各署名は編綴された状態でなされたこと、以上の事実が認められ、証人湯田糸子、同湯田久弘、同阿部洋二、同藤原藤吉、同五十嵐勝幸、同鈴木梅吉、同玉川徳夫、同中村佐源次、同荒井君代及び原告藤原本人の各供述によれば、同証人らが署名をしたときは、いずれも六号簿冊は編綴されていたことが認められる。

してみると、証人室井道子及び同湯田政弘の前記各供述部分及び丙第一、二号証の報道は、右各証拠に照らして措信することができず、そして他に被告及び訴訟参加人の前記主張事実を認めるに足りる証拠はない。

(二)  被告及び訴訟参加人は、別紙目録第三記載の署名のうち、22(ただし、訴訟参加人は詐偽によるものとする)、24、25、62、72ないし74の各署名はいずれも自署でないと主張する。

そして、証人神主税(22)、同伊藤晴治(24、25)、同佐藤静吾(62)、同大竹荒木(72)、同大竹サダヨ(73)、原告藤原本人(22、25、62)の各供述によれば、右各署名は、いずれも本人によつてなされたものではないことが認められ、原告藤原本人の供述中同24の署名に関する部分は証人伊藤晴治の証言に照らして直ちに措信し難く、他に右認定に反する証拠はない。

(三)  右のほか、訴訟参加人は、別紙目録第三記載の署名のうち、9、14、16、21、26ないし30、48ないし50、56、57、64、66の各署名はいずれも自署でないと主張する。

<証拠>によれば、右目録記載50荒井ハルミの署名は、本人によつてなされたものでないことが認められる。

しかしながら、原告藤原本人(9、21、26、27、56、57)、証人横山貴善(14)、同横山由貴子(16)、同吉野友喜知(28)、同吉野圭介(29)、同吉野暁子(30)、同田近岩次(48)、同田近ふみ代(49)、同湯田久弘(64)、同大竹コト(66)の各供述によれば、荒井ハルミの署名を除くその余の右各署名はいずれも本人によつてなされたものであることが認められ、これに反する丙第三号証及び丙第四号証の記載は原告藤原本人の供述に照らして措信することができず、他に右認定に反する証拠はない。

(四)  右のほか、別紙目録第三記載の署名のうち、6ないし8、18、20、31ないし33、46、53、63、68、75の各署名については、証人荒井君代(6)、同湯田糸子(7)、同神登(8)、同大竹イノ(18)、同神主計(20)、同吉野明子(31)、同室井道子(32)、同藤原藤吉(33)、同玉川徳夫(46)、同阿部洋二(53)、同湯田政弘(63)、同五十嵐勝幸(68)、同中村佐源次(75)の各証言によれば、右各署名はいずれも本人によつてなされたものであることが認められる。

(五)  別紙目録第三記載の署名のうち、右各署名を除くその余の各署名については、これらがすべて本人の自署であるとの原告らの主張に対し、被告及び訴訟参加人において特にこれが自署でないことを窺わせるべき主張及び立証はないから、右各署名はいずれも本人によつてなされたものと推定されるところ、右推定を覆すに足りる証拠はない。

(六)  被告は、別紙目録第三記載の署名のうち、31吉野明子の署名は受任者がいないところでなされたものであつて無効であると主張する。

これについて、証人吉野明子の証言中には、同証人は、署名収集者が同証人方を訪れた際は二階にいて、夫吉野智之及び義父がすでに署名をすませたのち、夫から呼ばれて一階に下り、夫から署名簿の交付を受けて署名をしたが、署名収集者には会わなかつたとの供述部分がある。

しかしながら、右のうち署名収集者に会わなかつたとの部分は、六号簿冊の受任者藤原豊明が同人方を訪れたとする証人吉野智之の証言並びに右吉野明子にも面接をして署名の趣旨を説明したとする原告藤原本人の供述に照らし、直ちに措信し難いのみならず、たとえ同人が藤原豊明と直接面談をしなかつたとしても、受任者から直接署名を求められた者がその際同居の妻に対して署名簿を交付しこれによつて署名がなされたような場合においては、これをもつて第三者による署名収集がなされたものとはいい難いから、右供述にかかる事実によつては、右署名が無効であるということはできない。

(七)  訴訟参加人は、別紙目録第三記載の署名のうち、8神登、18大竹イノ、20神主計、31吉野明子、63湯田政弘、75中村佐源次の各署名は署名収集者の詐偽によるものであり、32室井道子の署名は強迫によるものであると主張する。

しかしながら、右主張事実を認めるに足りる証拠はないのみならず、署名者以外の第三者が詐偽・強迫を無効事由として署名の効力を争うことが許されないことは前示2(四)のとおりであるから、訴訟参加人の右主張は採用することができない。

(八)  以上により、別紙目録第三記載の署名のうち、1ないし21、23、26ないし49、51ないし61、63ないし71、75の各署名は有効であるが、他方、22、24、25、50、62、72ないし74の各署名はこれを有効と認めることができない。

6  別紙目録第四記載の署名について

(一)  被告及び訴訟参加人は、別紙目録第四記載の各署名は、署名簿(一〇号簿冊)が当初は各葉ごとに分離された状態で署名され、後になつて編綴されたものであり、成規の手続によらない署名簿及び改編された署名簿として署名全体が無効であると主張する。

これについて、証人渡部テルイ、同星信雄、同星澄江及び同星幸治の各証言中には、いずれも一〇号簿冊の署名者である同証人らが署名をした用紙は一枚であつたとの供述部分があり、同星ミチヨの証言中には、一〇号簿冊の署名者である同証人が署名をした用紙は帳面だとは思わなかつたとの供述部分がある。

しかし、鑑定の結果によれば、一〇号簿冊は、ホッチキスの針穴及び用紙の割印の状態からみて、当初割印を押捺したものがその後解体されて編綴された形跡はなく、用紙が編綴された後に割印が押捺された状態であること、用紙の裏面には汚損は検出されず、表面の綴込み部分にも汚染、汚損、折目等用紙を個々に分けて一枚の用紙の状態で扱つた形跡は検出されていないことが認められ、証人鈴木トヨ子、同小椋喜美雄、同星栄吉、同湯田正男、同湯田敬喜、同湯田雄之助、原告弓田本人の各供述によれば、同証人らが署名をしたときは、いずれも一〇号簿冊は編綴されていたことが認められる。

してみると、証人渡部テルイ、同星澄江、同星幸治及び同星ミチヨの前記各供述部分は、右各証拠に照らして措信することができないものといわなければならない(丙第一、二号証の前記記載は右各証拠に照らしても措信できない)。

もつとも、鑑定の結果によれば、一〇号簿冊の署名のうち、(ア)弓田哲代の署名の「代」の文字の筆圧痕が、用紙を二つ折にした状態で同裏面に接着する同一用紙の裏面には検出されるものの、編綴された署名簿の次葉の表面の対応する部分には検出されないことが認められることから、右署名は編綴されない用紙になされたのではないか、(イ)弓田敬喜及び湯田雄之助の署名の筆圧は二つ折の状態で同裏面に接着する位置にある同一書面の裏面に検出されていないことが認められることから、右各署名は署名用紙を一枚の用紙に広げた状態でなされたのではないか、との一応の疑問が生じないわけではない。

しかしながら、証人玉川彦衛、同田沼義久、原告藤原本人、同弓田本人の各供述によれば、一〇号簿冊を含む本件解職請求者署名簿六四冊は、まず藤原豊明がホッチキスで編綴し、玉川彦衛が請求代表者星平八の「星」の印鑑を使用してこれに割印を代行して署名簿を作成したうえ、田沼義久の発案により署名簿の汚損等を防止するため画用紙の下敷き(検甲一号証と同様のもの)を用意し、これと署名簿とを各受任者が受取つて署名収集が開始されたことが認められ、また、証人弓田敬喜及び同湯田雄之助の証言によれば、同証人らが署名をするときは二つ折にした署名簿の用紙の間に下敷きを入れた状態であつたことが認められ、他に右認定に反する証拠はない。

のみならず、右事実に基づけば、弓田哲代の署名の「代」の文字の筆圧痕のみが用紙を二つ折にした状態で同裏面に接着する同一用紙の裏面に検出される事実は、用紙の間に挿入された下敷きが上部にずれて「弓田哲」の文字部分の筆圧は下敷きにかかり、「代」の文字部分の筆圧のみが裏面にかかつたものであることをも窺わせる。

また、鑑定の結果によれば、一〇号簿冊の署名のうち、弓田文明の署名の筆圧痕は、編綴された署名簿の用紙の前葉の対応部分に及んでいることが認められるが、これによれば、右署名は、編綴された状態の署名簿になされたものであることが窺われる。

したがつて、右(イ)及び(ロ)の事情は、前示認定の妨げとなるものではなく、他に前示認定を覆すに足りる証拠はない。

(二)  訴訟参加人は、別紙目録第四記載の署名のうち、8、11、15ないし18、23、30、31、35、36、40、46の各署名は、いずれも本人の自署でないから無効であると主張する。

右のうち、11室井イヨ子、30鈴木次郎、46湯田モンの各署名については、これが本人によつてなされたものであることを認めるに足りる証拠はない。

証人湯田イワ子(8)、同橋本辰夫(15)、同橋本郁(16)、同米村洋(17)、同内海日出夫(18)、同小椋ヨシノ(23)、同鈴木美子(31)、同二宮ツギヲ(35)、同川合トヨノ(36)、同渡部正徳(40)の各証言によれば、右各署名のうち、8、15ないし18、23、31、35、36、40の各署名は、いずれも本人によつてなされたものであることが認められる。

証人星幸治(38)、同星ミチヨ(39)の各証言によれば、別紙目録第四記載の署名のうち、38、39の各署名はいずれも本人によつてなされたものであることが認められる。

別紙目録第四記載の署名のうち、右各署名を除くその余の各署名については、これらがすべて本人の自署であるとの原告らの主張に対し、被告及び参加人において特にこれが自署でないことを窺わせるべき主張及び立証はないから、右各署名はいずれも本人によつてなされたものと推定されるところ、右推定を覆すに足りる証拠はない。

(三)  以上により、別紙目録第四記載の署名のうち、11、30、46の各署名はいずれも無効であるが、その余の各署名はいずれも有効である。

四以上によれば、原告星平八及び同藤原豊明の本訴各請求は、被告が昭和六〇年二月一六日別紙目録第一及び第二記載の署名につき、同月一七日同第三及び第四記載の署名につきいずれもこれを無効とした決定のうち、同目録第一記載の署名中番号1、2、4ないし15、17ないし20、22、23、25ないし29の各署名、同目録第二記載の署名全部、同目録第三記載の署名中番号1ないし21、23、26ないし49、51ないし61、63ないし71、75の各署名及び同目録第四記載の署名中番号1ないし10、12ないし29、31ないし45の各署名に関する部分はいずれも理由があるから、右の限度で正当としてこれを認容し、その余は失当としてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条一項本文及び九四条後段を適用し、なお、本件訴訟のうち原告弓田国勝の請求に関する部分は、昭和六〇年九月二五日同原告の死亡により終了しているので、その旨宣言することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官小林茂雄 裁判官山口 忍 裁判官寺内保惠)

目録第一(自署無効分)

(番号) (氏  名)

1 佐 藤 東 一

2 山 川 トヨ子

3 皆 川 正 博

4 室 井 利 江

5 山 川 善 次

6 荒 井 照 道

7 星   信 雄

8 星   澄 江

9 大 竹 トヨノ

10 大 竹 一 芳

11 児 山 トシイ

12 児 山 時 子

13 玉 川 リキ子

14 江 森 マツコ

15 渡 部 ミドリ

16 室 井 政 美

17 渡 部 政 道

18 室 井 好 雄

19 星   金 雄

20 室 井 ミサ子

21 馬 場 ミヨコ

22 佐 藤 秋 子

23 永 峯 五 郎

24 渡 部 イ ク

25 渡 部 庄 一

26 渡 部 利 江

27 玉 川 ヨシノ

28 大 竹 貫 一

29 三 沢 ヤシノ

目録第二(その他署名無効分)

(番号) (氏  名)

1 渡 部 正 美

2 渡 部 政 忠

3 小 川   正

4 芳 賀 花 子

5 小 川 ミ ネ

6 芳 賀 秋 夫

7 渡 部 一 衛

8 室 井 典 子

9 室 井 権 徳

10 玉 川 重 美

11 阿 部 富 二

12 横 山 ト ヨ

13 芳 賀 千恵子

14 大 竹 ミツ子

15 五十嵐 千鶴子

16 佐 藤 吉 衛

17 三 沢 美恵子

18 吉 野 智 之

19 白 石 マサエ

20 弓 田 ト ノ

21 室 井 トシエ

目録第三(署名簿第六号分)

(番号) (氏  名)

1 藤 原 豊 明

2 藤 原 タケ子

3 西 山   茂

4 藤 原 ツヨ子

5 五十嵐 常 一

6 荒 井 君 代

7 湯 田 糸 子

8 神     登

9 佐 藤 ハルミ

10 佐 藤 松 芳

11 横 山 シゲ子

12 横 山 リ サ

13 横 山 英 俊

14 横 山 貴 善

15 横 山 千代子

16 横 山 由貴子

17 横 山 トメヨ

18 大 竹 イ ノ

19 鈴 木 梅 吉

20 神   主 計

21 佐 藤   力

22 神   主 税

23 佐 藤 松 雄

24 伊 藤 晴 治

25 伊 藤 カツ子

26 青 木 保 雄

27 青 木 宗 子

28 吉 野 友喜知

29 吉 野 圭 介

30 吉 野 暁 子

31 吉 野 明 子

32 室 井 道 子

33 藤 原 藤 吉

34 高 山 睦 子

35 藤 原 トヨ子

36 佐 藤 忠 義

37 佐 藤 トヨミ

38 藤 原 与 一

39 藤 原 雪 夫

40 大 竹 正 男

41 室 井 ハル子

42 荒 井 吉 正

43 室 井 テル子

44 玉 川 里 子

45 玉 川 イ セ

46 玉 川 徳 夫

47 玉 川 真 理

48 田 近 岩 次

49 田 近 ふみ代

50 荒 井 ハルミ

51 平 野 エイ子

52 剣 山 菊 枝

53 阿 部 洋 二

54 阿 部 ト モ

55 鈴 木 タツノ

56 加 藤   一

57 加 藤 た け

58 平 出   登

59 小 山 松 男

60 弓 田 セツヲ

61 高根沢   功

62 佐 藤 静 吾

63 湯 田 政 弘

64 湯 田 久 弘

65 星   重 雄

66 大 竹 コ ト

67 五十嵐 重 夫

68 五十嵐 勝 幸

69 山 口 兼 吉

70 山 口 キ ミ

71 佐 藤 洋 一

72 大 竹 荒 木

73 大 竹 サダヨ

74 長 嶺 クニノ

75 中 村 佐源次

目録第四(署名簿第一〇号分)

(番号) (氏  名)

1 弓 田 国 勝

2 弓 田 哲 代

3 弓 田 久美子

4 弓 田 蓉 子

5 湯 田 正 男

6 室 井 睦 夫

7 弓 田 敬 喜

8 湯 田 イワ子

9 佐 藤 市 次

10 佐 藤 ヤチヨ

11 室 井 イヨ子

12 渡 部 杜 子

13 星   マスミ

14 前 田 英 利

15 橋 本 辰 夫

16 橋 本   郁

17 米 村   洋

18 内 海 日出夫

19 内 海 順 子

20 渡 部 隆 雄

21 大 塚 修 一

22 小 椋 清 光

23 小 椋 ヨシノ

24 渡 部 テルエ

25 小 椋 喜美雄

26 小 椋 幸 枝

27 渡 部 ミ ヨ

28 星   ト キ

29 高 橋 力 子

30 鈴 木 次 郎

31 鈴 木 美 子

32 湯 田 雄之助

33 高 橋   正

34 福 田 ミ セ

35 二 宮 ツギヲ

36 河 合 トヨノ

37 星   ミイ子

38 星   幸 治

39 星   ミチヨ

40 渡 部 正 徳

41 星   喜久子

42 星   幸 雄

43 星   ス イ

44 弓 田 文 明

45 星   栄 吉

46 湯 田 モ ン

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例